2015/06/30

『東海道四谷怪談』6/24昼 1 言葉のままに、正直なひとたち 邪魔だな、斬ろう

@新国立劇場 中劇場
作:鶴屋南北
演出:森新太郎
上演台本:フジノサツコ

民谷伊右衛門/内野聖陽 お岩/秋山菜津子

四谷左門/山本亨 お袖/陣内将 佐藤与茂七/平岳大

伊藤喜兵衛/小野武彦 伊藤後家お弓/下総源太朗 
伊藤孫娘お梅/有薗芳記 乳母お槙/木村靖司

按摩宅悦/木下浩之 秋山長兵衛/大鷹明良 関口官蔵/酒向芳
中間伴助/采澤靖起 小仏小平/谷山知宏 利倉屋茂助/北川勝博 お熊/花王おさむ
捕手/中間/黒子 稲葉俊一、わっしょい後藤、森野憲一、頼田昴一


事前に『新潮日本古典集成』と『少年少女文学館 四谷怪談』(講談社/高橋克彦)を読んで行きました。原作を読んでいると、行間を読むとか伊右衛門の不安定さ、などというものなど、ほとんど気が回らないほどの血みどろ、バッサバッサと人が切られ、死んでいきます
お岩の顔が崩れたことが分かった次のページでは、もうお岩が死んでしまい、さらにその次(3ページ後)では、帰宅した伊右衛門が小平を切り捨てるという激しさ。1頁ごとに人が死んでいく。

この話、長いのに死ぬのは早い! 何でこんなに長いのー、と思ったら、伊右衛門とお岩の話以外にも、妹夫婦のあだ討ち問題やら、お袖につきまとう男の話やら、入り混じっていて忙しいのであった。人間関係が複雑。

これをどうやって3時間におさめるのかというと、妹たちの話をキレイにカット。他のシーンも筋に直接関係ないところもカット、伊右衛門とお岩の話をしっかりメインに。なかなかうまかった。

【言葉】
セリフは基本、鶴屋南北のものを採用しています。なので、当時の言葉で話す。時代考証がいい時代劇、演出はわりと現代風あり、です。

言葉そのものが心の言葉でした。セリフと行動が合致しています。恨みます、といえば恨んでいるし、邪魔だと叫ぶのは邪魔だから。わりと言葉とは裏腹に、実は心では・・・ということが多々ある現代劇を見慣れている身としては、とか言いつつ、本当は?と期待しては、あ、本心だったのか!
つまり、四谷怪談の登場人物たちはことごとく正直です。武士の体面だの、貧乏だの、理由はさまざまながら、実に正直に行動していました。まずこれが新鮮。

ついで、おおーっと思ったのは、逡巡するも要求を受け入れる場合のシーン。妻子もちの伊右衛門さんと知っているが、うちの可愛い孫娘お梅を嫁がせたい、受けてくれないか。という場で。
「サァ」「サァ」「サァ」 というやり取りが。伊藤喜兵衛が、サァ!といい、伊右衛門がサァ!と答え、サァ、サァ、と互いに言い合う。
活字で読んでいるときはうまく理解できなかった。だって、どうですか?そこをなんとか、いやいや・・・ という交渉中を「サァサァサァ」で進行させるのです。

見れば分かった。相手の呼吸に合ってしまうんですね、<息があう>などと一緒で、取り込まれて呼応しあっていく過程をこんな風に表現するなんて。歌舞伎のお約束なのかしら?無知が情けないですが、面白い表現だと思います。

【伊右衛門】
可愛げ、というものがほんの一瞬だけ出そうな予感・・・予感のまま、終演。いや、内野聖陽は可愛いのだが、伊右衛門は、見事に<いま・ここ>さえ良ければいいという男です。
舅を殺す前にしおらしく、妻の父は私の父でもある、と言うのですが、藩の金を横領した男に娘はやれぬと復縁を断られたら、あっという間に殺害。(原作だと実はまだ死んでなくてすごい血みどろでお岩の家まで来るんだよね、父。ひいい、こわい)
オレの邪魔をするものは切り捨てて排除、という短絡思考が(逡巡してる様子がない)怖い。

復縁さえすれば、全て上手く行くとか思っていたら、赤ん坊はうるさいし、お岩は肥立ちが悪くて家事ができないし、自分は無職のままだし、夏で暑いし、いらいらしてるわけだ。分かるよ、分かるけど、ほんと自分勝手ですごい。みんなそう<思う>けど実行しないんだ、でも悩まずにしちゃうのだ。それが伊右衛門。

隣家の伊藤家から戻って、まず家の入り口に置かれた赤ん坊に躓きそうに。危ない(赤ん坊が死んでしまうじゃないか、の意味だと思う)と言いながら赤ん坊を抱え、果てているお岩を見つけます。岩が家出してるはずの家で死んでいるのを見て、泥棒した小平を間男に仕立てようとする場面なのですが、<赤ん坊を抱き抱えながら、小平を刀で斬る>のです。

おかしいですよね、ひー、くらくらする! この場面の動き、オカシイ! 一方で赤ん坊の心配をしながら、もう片方の手では間男を仕立てるために殺しをする・・・

一瞬、赤ん坊は可愛いけれど、お岩は邪魔になったのか?などと理屈を考えたのですが、今思えば、赤ん坊は<邪魔になっていない=男子なので跡継ぎだ>だけだった気がする。いまの感覚だと、赤ん坊は可愛いから抱いて守っている、になるけれど、単に跡継ぎだからであろう。
 
そして小平とお岩2人を戸板に打ち付けて川へ流してしまいます。うわぁ、その後、お岩が寝ていたとこに、お梅との新床を「あてつけに」と言って! ひとでなしー!

ちなみに、伊右衛門もひとでなしだが、お梅の祖父もロクデナシです。小野武彦が演じると、ほんとただの孫可愛さのあまり、お岩に顔面が崩れる秘薬を血の道の薬と言って飲ませる爺だから、ねじれ具合がますます怖い。
あれー。乳母のお槙がそれを知っていたかが思い出せないなぁ 後家のお弓とお梅は知らなかったのですけれど。(お槙さんは何でも承知!のスーパー秘書みたいな人だったので、知っていても驚かぬ)

さらに最高すぎる展開は、妻の死を利用して若い妻と仕官先(これは約束状態)を手に入れた次の瞬間(最悪の方法でだが、全てを手に入れた伊右衛門である)に、
お岩のヒュードロドロ炸裂!
伊右衛門に新妻と思ったらお岩であるという幻想を見せ、伊右衛門はお岩を斬ったつもりで新妻を斬ってしまう、ついで同様に小平が赤ん坊をむしゃむしゃ食べていると思い、義父を自分の手で殺してしまう。

頂点からまっさかさま、テンションの乱高下にギャフンギャフンです。

さすが女だ、まだ浮かばれないのか!などと叫ぶ伊右衛門だが、お前が悪いんだぞとしか言えない。すべての責任を自分以外の者に転嫁する才能があるのだった。悪い男というより、あまりに即物的かつ自己中。ひどすぎて、馬鹿とも言いたくない。
のだが。
のだけれど、ウッチーの伊右衛門は、哀れでもなく非道でもなく、むしろ虚? 生きつづけることだけを目的に手段を選ばぬ男だった。内面を描こうとしないって、新鮮だった。内面なんかないのか、わざと見せないのか・・・? やはり、行き当たりばったりの男というしかないわ。

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